著者
近江屋 一朗 中村 攻 齋藤 雪彦 鳥井 幸恵 田中 史郎
出版者
千葉大学
雑誌
食と緑の科学 : HortResearch (ISSN:18808824)
巻号頁・発行日
vol.62, pp.59-69, 2008-03

本研究は子どもの遊び環境の一つとして,現在その遊び環境としての機能が低下していると考えられる,下校路の将来あるべき像を描くためのものである.そのために50代以上,30代・40代,20代以下の回答者それぞれの下校行動の特徴を(1)下校ルート(2)下校時の行動と環境(3)下校ルートにおける仲間の有無から明らかにした.その結果,直帰型,Uターン型,選択型,複合型の5つに分けられた下校パターンは世代によって割合が変化しており,若い世代では下校ルートを能動的に使い分けない直帰型やUターン型の帰り方が多くなっていた.また,下校パターンと下校時の行動にも関係性が見られ,複数の道を使う帰り方で下校時の行動は活発であった.40代以下から増え始めた遠回り型や複合型は遊びや友達を得るために子どもたちが遠いルートでも利用しているということを示していると考えられた.これらより,今後の下校路には遊び環境の充実と共に幅広い道の選択を許容することの重要性が示された.
著者
増田 絹子 岩崎 寛 藤井 英二郎
出版者
千葉大学
雑誌
食と緑の科学 : HortResearch (ISSN:18808824)
巻号頁・発行日
vol.61, pp.27-40, 2007-03-31

本研究では,日本でみられる多様な植物との関わりについて検討するために,植物由来の色名について,その意味や成立背景に基づいて把握し,そして戦前から近年におけるこれらの色名の推移を調査し,植物との関わりが色名の推移にどう反映されているのかを分析した.日本の植物由来色名は染料植物由来色名に始まり,植物様態由来色名,染法用語由来色名,欧米起源の植物由来色名で構成されることが確認された.染料植物由来色名については,アイ,クレナイ以外の植物に由来する染めの程度を示す色名や重ね染めを意味する色名,染料植物の婉曲表現の色名が衰退していたことから,植物を染料として利用する機会やこれらの染め色を目にする機会が減少していることが示唆された。植物様態由来色名については,微妙な色の差異を示し,より細かい季節を象徴する色名が衰退していたことや,植物の俗称や別名の色名が衰退していたことから,身近な植物への関心の低下や身近な植物の減少が示唆された.欧米起源の植物由来色名においては,盛んに交替する性質があり,植物名から色がイメージされるまで定着しているものが少なかったことから,色名の対象となった植物の存在が軽視されていることが示唆された.
著者
Edurise Escuadra Gina M. 宇佐見 俊行 雨宮 良幹
出版者
千葉大学
雑誌
食と緑の科学 : HortResearch (ISSN:18808824)
巻号頁・発行日
vol.62, pp.21-29, 2008-03

種々の有機質素材からなる堆肥を用い、Fusarium oxysporum f. sp. spinaciaeによって引き起こされるホウレンソウ萎凋病の発病に及ばす影響を評価するとともに、土壌中の微生物と病原菌に対する影響について調査した。堆肥はコムギフスマ、コムギフスマ・オガクズ、コーヒー粕、鶏ふん、およびこれらの混合物に5%のカニ殻粉末を無添加または添加したものを供試した。各堆肥を病原菌汚染土壌に5%(w/w)添加し、その30日後からホウレンソウを約1ヶ月ずつ連続して栽培し、2作後には堆肥をさらに2.5%追加施用した。その結果、各堆肥施用区とも2作目以降から発病が顕著に抑制されるようになり、特に混合堆肥施用区でその効果が高かった。FDA(fluorescein diacetate)分解活性を指標に土壌中の微生物活性を調べたところ、これらの堆肥施用土壌ではいずれの栽培時においても無処理の土壌に比べてその値が高く、希釈平板法で検出される糸状菌、細菌、放線菌の密度もそれに対応して増加していた。これら微生物群の中では細菌の増加が特に顕著であった。さらに、細菌を対象としたプライマーを用いてPCR-DGGE (denaturing gradient gel electrophoresis)解析を行った結果、堆肥施用に伴って土壌中の細菌群集構造が多権化していることが伺えた。また、堆肥を施用した土壌ではいずれも無処理の土壌に比べて病原菌の胞子発芽が抑制れる傾向が見られた。以上の結果より、堆肥施用に伴う発病抑止機構の一つとして、多様化・活性化した土壌微生物の競合や拮抗など様々な機能の総合的作用によって土壌の静菌作用が強化され、病原菌の活動が抑制されることが考えられた。